失った美しい空間

悲愴をリクエストされた時思った。

弾けるかなぁ…。

指動くかなぁ…と。


母が忙しくておもちゃがわりに与えられたピアノ(電子ピアノ)私はのめり込んでいき保育園の頃習った先生には一年で教えられなくなった。

ピアノは習い始めた時からやったことがあるような気がしていた。なんでこんな簡単なところからやらなければならないんだろうと思った。

習い始め2ヶ月で『人形の夢と目覚め』を発表会で弾いた。

足をブラブラさせドレスの先生の隣に座る私の写真が今も記憶にある。

黒と白のワンピースはワカメちゃんのように丈が短くて誰かのお下がりだったのかもしれない。


『ホントは半年たたないと発表会出られないんだけどmaiちゃんは特別』そう言って秘密ね、とでも言うように明るく笑った先生。

特別✨という言葉の響きがくすぐったかった。

どこぞの音大を卒業したエキゾチックな美人で明るい女性だった。

先生は大好きだったが先生の愛犬の意地悪なポメラニアンが私を噛むのでレッスンを辞めることに同意した。


2つ隣の市の当時芸大の大学院生だった先生に習いに行ったが当時ワンレッスン一万円。月謝ではない。一時間だ。

なかなか強気な価格設定だと今は思う。

自分の子供にその値段は出せない気がする。


もう教えることがないからと45分で帰されたりしたので母はプリプリ怒っていた。


実は10分間指ならしの時間と言って先生がいない最初の時間があったので実際はもっと短かった。


でもこの先生のレッスンが好きだった。

何にも教えない。

当時先生のリサイタルに行ってはリストの超絶技巧だのラフマニノフの音の絵だのを弾きたがり、先生より私の方がうまく弾けるみたいな顔した

小学生の私を気にもせず(当たり前だ🤭)、先生は自分の論文の研究の話をしたり好きな演奏家のレコードをかけて聴いたり。

そんな空間が心地よかった。


先生はシャイなのか話す時私の顔を見なかったし私も何も喋らない子で、そんな静かなレッスンは楽しかった。


先生の師匠だと言う芸大の教授にも会った。

その教授には『テクニックはあるけど表現力はなし』と言われた。


私の評価は『テクニックはあるけど』いつもそれだった。高校生になり先生がある音大を受験するよう勧めてきた。

音楽を仕事にするつもりなど全くなかったので面食らった。楽しい習い事と思っていただけで音大を出て仕事にという感覚が全くわからなかった。


当時先生がそこの大学に勤める予定があったとかでそこにどうしても生徒を入れたかったらしい。

全然関係ない先生が出てきて『この子の将来をどうお考えか!』と先生と大喧嘩になった。


当の私は大人の事情に巻き込まれる形であの穏やかな空間を失った。


音楽の道に進むつもりはありませんと私が伝えると


裏切り者!破門だ!


先生はその時はっきり私の顔を見てそう言った。

破門ってなんだ?16歳の私はそう思いながら悲しい気持ちでいっぱいになった。



ベートーヴェン悲愴

第一楽章

https://youtu.be/K_vHnNK5VsY

第二楽章

https://youtu.be/B57i-ef8UwM

第三楽章


ベートーヴェン悲愴 3楽章

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